
アニメCG制作の現場で長く使われてきたAutodesk社の3ds Max。そこにソニーのモバイルモーションキャプチャー「mocopi®」を組み込むためのプラグイン「mocopi Receiver Plugin for 3ds Max」が新たにリリースされました。このプラグインは実際のアニメーション制作スタジオの現場の要望が発端となって生まれました。
この記事ではプラグイン開発のきっかけを作り、開発期間を通じて評価とフィードバックを担った株式会社 スタジオフォートゥー(以下スタジオ42)の3DCGディレクター室薗勇輝氏に、導入の背景と現場での手応え、そして制作中のTVアニメ『勇者パーティを追い出された器用貧乏』2期での活用について伺います。

左 インタビュワー ソニー (株) mocopi開発チーム 川島 右 (株) スタジオ42 3DCGディレクター室薗勇輝氏
スタジオ42は、代表の今本尚志(いまもとたかし)氏がGONZOの制作プロデューサーを経て、KADOKAWAに在籍した後に独立し設立した会社。TVアニメ『勇者パーティを追い出された器用貧乏』のアニメーション制作を担当し、現在は同作の2期を制作中。
「直接繋がれば便利なのに」現場の声から生まれたプラグイン
スタジオ42は3ds Maxを軸にTVアニメのCG制作を手掛けるスタジオです。3ds Maxは歴史ある3DCG制作ツールで、二足歩行用リグの「Biped(バイペッド)」を含め、20年以上にわたって現場で使われ続けてきました。日本のアニメCG分野においては馴染み深く、デファクトスタンダードといえる存在です。実際に、スタジオ42でも実績と信頼のある3ds Maxをメインツールとして使ってきました。

そんな3ds Max向けのmocopi Receiver Pluginが生まれるきっかけは室薗氏の一言から始まります。
室薗氏がmocopiに触れたのは、2025年1月に秋葉原で開催されたmocopiプロフェッショナルモードの体験会でした。「実際に体験してみると精度が想定以上でアニメ制作での可能性を感じました。何より、どこでも収録できて、その場で何度でも録り直せるという手軽さに強く惹かれました。」と室薗氏は語ります。
ただし、当時3ds Maxで使うにはAutodesk社のMotionBuilderを介する必要があり、手間とコストがかかる工程になっていたため、実際の導入には壁があったと言います。
「Maxに直接繋がれば便利なのに」2026年2月に開催されたアニメ制作関連のとあるイベントで直接その言葉をmocopi開発チームが受け取り、すぐに開発が始まりました。
プラグイン開発は実際にプロトタイプを触ってもらいながら進みました。
「リアルタイムで動くBipedを見てウオオと声が出てしまいました。20年近く触ってきたMaxが見たことない挙動をしていて良い意味で気味悪く感じました。これだけ素早く対応してくれたのだから自分たちもしっかり評価してMaxユーザーに広めて盛り上げていかなければならない。」と室薗氏は言います。こうして、スタジオ側がユーザー兼アドバイザーとして協力したことにより、現場の声を反映した実用的なプラグインが生まれました。

mocopi Receiver Plugin for 3ds Maxの機能紹介
そのような経緯で開発されたmocopi Receiver Plugin for 3ds Maxは、mocopiのモーションを3ds Maxへ連携し、Bipedで扱うためのプラグインです。制作現場にとって特に重要な機能として次の二つが挙げられました。
本番キャラクターでリアルタイムに確認できる
mocopiアプリ内のプリセットアバターではなく、3ds Max内で直接、実際に制作で使用するキャラクターを動かして確認できます。体格や衣装の違いによるめり込み、可動域、画角から見た印象を収録しながら把握できます。
mocopiのモーションをBIPデータ(Biped形式のモーションデータ)に変換できる
従来はMotionBuilderを必要としていたフォーマット変換やリターゲット設定などの工程を、mocopi Receiver Plugin for 3ds Max を使えば3ds Max側で完結できます。別ソフトを経由する手段が減ることで、収録から調整に移るまでの流れが短くなるなどの効率化・コスト面での効果も挙げられました。

『勇者パーティを追い出された器用貧乏』主人公オルン・ドゥーラの3DCGモデル
アニメ制作におけるmocopiの活用フロー
mocopiとプラグインによって実際にアニメの制作現場はどのように変わるのでしょうか。室薗氏は従来できなかった新たな制作フローとして次の3つの活用方法を語ってくれました。(図1参照)
① 手付だけでは手が回らなかったモブキャラへのアニメーション活用
今まで画面に一度に大量のキャラクターが出て、しかもそれぞれが独自の動きをするアニメーションを作るのが大変すぎるという問題をずっと抱えていました。制作中のTVアニメ『勇者パーティを追い出された器用貧乏』2期でもモブキャラやモンスターの群れなど、画面内で動かす必要のあるキャラクターが増えています。そのような手付では工数が膨大となり手が回らなかったカットにmocopiで収録したモーションを使うことで、背景のキャラクターに必要な動きを加えて画面の密度を高めていくことができます。
② 「0から1」をmocopiで作り、若手スタッフの役割を広げる
モーションのベースをmocopiで作れるようになると、その後のクリンナップや演出に合わせた調整を、比較的経験の浅いスタッフに分担しやすくなります。
ゼロから動きを作ることには経験を必要としても、ベースとなる動きを元に修正や調整という工程なら比較的経験が浅くても制作に参加できます。このことは、単なる作業時間の短縮だけでなく、指示された動きを作ることが中心だったスタッフへの教育にもなります。ベースモーションを見ながら、「このキャラクターなら、こちらの動きの方が良いのではないか」と考えられるようになれば、仕事が演出へと広がり、若手スタッフの成長に繋がります。
また、作業を分担することで、実力のあるアニメーターには見せ場のカットを集中して任せ、それ以外のカットはmocopiで作成したベースモーションを調整したカットで効率よく進めることができます。これによって人員配分が最適化されアニメーション全体のクオリティを向上できます。
③ レイアウト段階での検証および指示
mocopiは、制作工程だけでなく、レイアウト段階での検証にも活用できます。
たとえば、キャラクターが歩きながら会話する場面では、歩く速度、セリフの長さ、移動距離を同時に確認する必要があります。実際に動きを収録して3ds Max上で確認することで、カットの尺やキャラクターの配置を早い段階で検討できます。
また、演出側が「3Dではこの表現は難しいだろう」と考えている場面でも、mocopiを使って短時間でベースを作り、具体的な画として提案できます。言葉や絵だけで説明するのではなく、キャラクターを実際に動かして提案できれば、演出の選択肢を一緒に検討しやすくなります。
mocopiを制作の効率化だけではなく、作品の演出の選択肢を広げるための道具としての活用も考えています。

図1 アニメのモーション制作工程におけるmocopiの活用
ちょっとした空き時間にデスクで収録、若手への教育にも
今回特別に、mocopiを実際に活用しているシーンも見せていただきました。現在mocopiを主に活用しているのは3DCGディレクターの室薗氏自身です。「自身のデスク周りで30分から1時間程度の空き時間にサクッと収録しています。収録したモーションはアニメのタイミングになるようにMaxでキーを調整して手付で修正しています。」
このことは若手スタッフの教育にも使えると室薗氏は述べます。「mocopiで自分自身、身体を動かしてもらい、実際の連動性をキャラクターの動きで確認させる。自然な力の入り具合、重心の動き、身体感覚を伴った、直感的な教育が可能です。また、アニメらしいコマ抜きやデフォルメの訓練としてどこを削り、間引くと気持ちよく見えるのかを考えさせる、実践的なアニメーション教材として活用したいと考えています。」
導入のハードルが低い点も、こうした使い方を後押ししています。通常版は49,500円*(税込)、プロキットを合わせても141,900円*(税込)という価格です。
「数百万円かかる本格的なスタジオ利用と比べれば、お試しや検証用として気軽に購入できます。それでいて、1日中好きなだけ試行錯誤できて、実用レベルに達している。ここに大きな価値を感じています。」
* 2026年9月時点の価格です。現在の価格は販売元でご確認ください。
『勇者パーティを追い出された器用貧乏』主人公オルン・ドゥーラの3DCGモデル
「mocopiは良いぞ」アニメ制作現場の新たな選択肢
最後に、室薗氏はmocopi開発チームへの思いをこう語ります。
「要望に対して、たった数か月でプロトタイプを持ってきてくれました。ここまでやってくれたのだから、今度は自分たちが現場で使い倒して、3ds Maxユーザーに向けて『mocopiは良いぞ』と盛り上げていく番だと思っています。」
手付け、モーション素材、外部スタジオでのキャプチャーには、それぞれ適した場面があります。mocopi Receiver Plugin for 3ds Maxは、制作現場自身で、必要な時に、日頃の3ds Max環境で動きをつくり、すぐに試せる選択肢を増やします。
その価値は、収録の手軽さだけではありません。本番キャラクターで素早く確認し、修正し、次の担当者へ渡すところまでを効率化し、作品のクオリティを上げること。作り手が足りない中で、限られた時間を演出と品質へ振り向ける。スタジオ42のmocopi導入の試みは、同じ課題を抱えるアニメ制作現場にとって、新たな選択肢をもたらそうとしています。

今回取材したスタジオ42が手掛けるTVアニメ『勇者パーティを追い出された器用貧乏』は、2期を鋭意制作中です。
(文責 川島 嵩之)
『勇者パーティを追い出された器用貧乏』
2026年1月から3月までTVアニメ1期が放送され、2期も鋭意制作中!
シリーズ累計発行部数640万部を突破した大逆転の異世界王道ファンタジー。
都神樹による原作小説は講談社Kラノベブックスから刊行中で、ニコニコ漫画「水曜日のシリウス」にてコミカライズが好評連載中。
公式サイト https://kiyou-bimbou.com
©都神樹・講談社/勇者パーティを追い出された製作委員会